【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
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 くくくく……と自分のものではない笑い声でライオネルは室内を見渡した。
「なぜおまえがいる」
 どこに隠れていたのか、物音一つ立てずにユースタスが姿を現した。
「なぜって、私は彼女がこの部屋にやって来る前にここにいたよ。ノックもしたしね。珍しく君が書類仕事に夢中になっていたようだからね、一区切りつくまで声をかけるのはやめておこうと思ったっていうわけさ。そうしたらさ、彼女がやってきたわけだろ? 私がいると緊張するかと思って、隣の部屋に隠れていたというわけ。私の気遣いに感謝してほしいね」
 はぁと肩を上下させるほど大きく息を吐いたライオネルは、ベルを鳴らして侍従を呼びつけた。そしてお茶を淹れるように命令すると、執務席から立ち上がった。そのときに両手を上にあげて身体を伸ばしただけで、身体からはバキバキと音がする。
 鍛錬での疲れよりも、座り仕事の疲れのほうが身体は痛む。
「で、なんの用だ?」
 座れ、とでも言わんばかりに長椅子に向かって、ライオネルは顎をしゃくる。その間、侍従は二人分のお茶を用意し終えると、静かに部屋を出ていった。
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