【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
「まったく。私を顎で使うのは、君くらいだよ。どうだい? 将官の椅子は」
「変わらん」
 昇進したからといって、ライオネルを取り巻く環境はまったく変わらなかった。
 部下の顔ぶれにも変化はないし、日々の仕事も以前と同じ。いや、将官になった特権としては、長期的な魔獣討伐を任せられることになったことだろう。だから、結婚式のあの日、ゾフレ地区にと派遣されたのだ。式を挙げていなくても書類は提出し、すでに彼女とは婚姻関係を結んでいたからだ。
 それに、以前よりもまわってくる書類の数は増えたかもしれない。これはいらぬ副産物でもある。
「相変わらずだね、君は」
 テーブルの上のカップに手を伸ばしたユースタスは、紅茶をゴクリと飲む。
「そして相変わらずいい茶葉を使ってるな」
「俺は知らん。おまえが勝手においていったやつだろ?」
「そうだったかな?」
 どうせなら美味しい紅茶が飲みたいよねと言い、勝手にライオネルの執務室に紅茶を置いていったのはユースタスだ。ライオネルは、喉の渇きを潤せれば、なんだっていい。
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