【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 もう一度、寝返りを打とうかと思ったとき、変な気配を感じた。
(まさか、本当に?)
 そういった疑いの思いが強い。だから、その変な気配も気のせいだろうと、きつく掛布を握りしめる。
 それに、仮に囮が成功して犯人がやってきたとしても、アンヌッカが囮であることを相手に悟られてはならないのだ。
 誰かが近づく気配がする。それが近づくにつれ、アンヌッカの心臓もドクンドクンと大きく音を立てる。
(ちょっと待って、ちょっと待って……)
 突然のことに考えが落ち着かない。
 罠を張りましょうと言ったのはアンヌッカだ。囮になることを承諾したのもアンヌッカだ。自分で決めて答えを出したというのに、実際にそれに直面すればどうしたらいいかがわからない。
「……んっ」
 首に体温が触れる。それは誰かの手。大きな手で指は太く皮は厚い。はっと目を開ければ、目の前に見知らぬ顔がある。
「だれ……っ」
 そう尋ねようとした瞬間、首に圧がかかり始めた。
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