【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
「……君には、悪いと思っている」
 普段は「おまえ」呼ばわりしているライオネルが、アンヌッカに向かって「君」と言ったのも驚きだった。
「いえ。わたしはこちらで自由にさせてもらっておりますので、何も謝るようなことはありません。ただ、驚いただけです。わたしたちの結婚は国王陛下からの命令。気持ちも伴わないもの。結婚したという事実さえあればよいものだと思っておりましたので」
「だから俺がここに戻らなくてもいいと、君はそう言いたいのだな?」
「そうですね。わたしの好きにしてかまわないと、先に提案してきたのも旦那様ですから。わたしはその言葉に従っただけです。まさか、今さら夫婦生活を送りたいとか、そういうわけではありませんよね?」
「あぁ……違う……」
 わかってはいたのに、そうやってはっきりと否定されてしまうと、心がズキリと痛んだ。
「わたし、今でもメリネ魔法研究所で働かせてもらっています。ですから、今のこの関係に不満はございません」
「そうか……だが、もう、終わりにしないか?」
「終わり?」
「離縁してほしい。好きな人ができた……」
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