【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 そわそわとしているマーカスにプリシラの声が飛ぶ。そんな二人のやりとりを見つつも、アンヌッカは手紙を読みすすめるものの、ひくっと唇が震えた。次第に眉間にしわが寄っていく。
 ――結婚したという事実があればいい。この結婚に愛などを求めぬように。
 アンヌッカの様子を見て、マーカスも不安に思ったのだろう。
「ちょっと見せてみろ」
 ひょいっと手紙をマーカスに奪われた。それを読み進めていくうちに、兄もわなわなと震え始める。
「な、なんなんだ。この内容は」
 今にも手紙を握りつぶしてしまいそうな勢いだ。
「お兄様、落ち着いてください」
「そうよ、あなた」
 だが、マーカスをなだめようとしているプリシラのほうが、手紙を読んでこめかみをふるふると震わせている。
「この結婚は政略的なものだとわかっていて受け入れたのはわたしです。逆に、はじめからこのように教えてくださって、親切ではありませんか」
「だが、これでは……」
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