【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 屋敷といっても大きな建物ではない。二階には寝室と客室、そして広間があったのは確認した。一階はまだ確認していないため、何がどこにあるのかわからない。
 でも、それも明日だ。今夜はもう、ゆっくりと休みたい。
「奥様ほどではありませんよ。すぐに、浴室の用意をしますね」
 人の気配のない屋敷は静まり返っているし、空気もどこかひんやりとしている。だけどこれから夏を迎えようとするこの季節は、火を入れる必要もない。ただ、人がいなかったことで空気が冷えているだけ。
 ヘレナが浴室の用意をしている間に、アンヌッカは与えられた部屋をひととおり確認した。寝具も整えられており、すぐに休める状態になっている。
 快く受け入れられたとは思っていないが、拒まれているわけでもなさそうだ。その事実にほっと安堵の息をもらす。
 メリネ家の屋敷のいたときのように、使用人がじゅうぶんとは言い難い。自分でできることは自分でやらなければならないだろう。
「浴室の用意が整いました」 
 ヘレナの声を聞きながら、明日からどうすごそうかと思案する。

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