【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 当面のやることは決まった。屋敷の掃除をして、快適に暮らせるようにすること。
「それから奥様には、お仕事もありますよね? こちらのことは私にまかせて、お仕事に専念なさってください」
 ヘレナがとんと胸を張った。
「ええ、そうね。でも、こちらを快適にするほうが先だわ。だってわたしたちは、ここで暮らすのよ? いくら旦那様が不在だからといって、メリネの屋敷には戻れないもの」
 この屋敷で暮らすようにというのは、ライオネルからの指示書のような手紙にも書いてあった。どうせ不在であるなら、そんな命令を守らなくてもいいのではないかと思えるのだが、どうやら定期的に家のことを確認するらしい。
 きっと昨夜の老齢の婦人でも使うのだろう。
「端から見れば、独占欲の強い旦那様にも思えますけどね」
 ヘレナの言葉に苦笑する。
 独占欲ではないだろう。どちらかといえば世間体だ。
 結婚式を挙げた挙げないにかかわらず、誰と誰が結婚したという話は自然と広まっていく。特に、ライオネルの場合は軍人だ。昇進のために必要な結婚であるから、彼が階級のために結婚したのだと、誰だって想像するにちがいない。
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