【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
「だけど、こんな状態であれば、わたしが社交の場に出るようなことはないでしょう? それだけはよかったと思うようにするわ」
 夫が魔獣討伐で不在だというのに、妻だけが夜会だ茶会だと遊び歩いていたら心象も悪いだろう。
「奥様のそういう前向きなところ、大好きです」
 アンヌッカもヘレナのそういう素直なところが大好きだった。
「さて、と。ヘレナ。やりますか?」
「はい」
 アンヌッカはドレスに前掛けをつけ、部屋の掃除を始めた。今日は天気もよいため、部屋という部屋の窓をすべて開ける。
 そうやってヘレナと二人で掃除をしていると、コリンズ夫人がひょっこりとやってきた。
 昨夜は遅くて何も説明できなかったが、という前置きをつけ、この屋敷についてざっくりと説明をしてくれた。淡々と話をするコリンズ夫人だが、昨夜の印象とは異なった。どうやら昨日は、結婚式が終わったらすぐにアンヌッカがこちらにやってくるものだと思っていたらしい。それなのに、なかなかやってこないアンヌッカにしびれを切らし、それで必要最小限の内容だけ伝えて帰宅したようだ。
 アンヌッカだって、そういった約束事があると最初からわかっていたら、それを守っていただろう。
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