【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが～その好きな人って変装したわたしでは？

　プリシラの言いたいこともわかる。
　アンヌッカは、訓練を受けた諜報員でもなんでもない。だから他人になりすますこともできないし、まして今回はカタリーナの名を借りるだけ。
「だから、アンヌッカを軍に派遣するにあたって、こちらから軍に要求をいくつか出すの。それを呑んでもらわなければ、人は出せませんってね。そこまで言ってもいいはずよ」
「なるほど」
　アリスタが感心したように首を縦に振った。
「そうね……。まずは、派遣する人間は通い。必ず、毎日、家に帰すこと。やむを得ず泊まりになる場合は、事前にこっちに連絡を寄越すこと。そうしたら、こちらからヘレナに連絡ができるわね。だからアンヌッカも軍施設から直接マーレ家の屋敷に戻るのではなく、一度、ここに立ち寄ってから帰りなさい。そういった意味では、この研究所は中継点ね」
　ほうほうと、アリスタもマーカスも、プリシラの話に耳を傾けている。
「もちろん。アンヌッカはここの研究所で仕事をしているように見せる必要があるから、朝も、ここに立ち寄ってから軍施設に向かう……あっ」