【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 執務席を挟み、イノンがアンヌッカを主に紹介した。
「メリネ魔法研究所から派遣されました、カタリーナ・ホランです」
 ふん、と鼻で笑うような仕草を見せた男の態度は、失礼なものだ。
 だがここはメリネ魔法研究所ではない。アンヌッカもぐっと怒りを抑え込む。
「俺が、ライオネル・マーレ少将だ。魔法研究部門は俺の直轄となる。覚えておけ」
 アンヌッカはくりっと目を大きく見開いた。
 目の前にいるこの男が、アンヌッカの夫なのだ。
 濡れ羽色の髪、榛色の瞳。座っているから実際の身長はわからないが、座っていてもこれだけの目線である。立てばアンヌッカが見上げる必要はあるだろう。
 それよりも彼は、アンヌッカであると気づいていない。目の前にいる女性は、カタリーナ・ホランという認識なのだ。
 アンヌッカだって普段のアンヌッカとは異なり、赤茶色の髪をすっきりと一つにまとめ、くるっと後頭部でシニヨンを作った。それから、紫色の瞳を隠すかのように黒縁眼鏡もかけている。アンヌッカを知っている者も、この姿を一目見ただけではアンヌッカであると気づかないはずだ。
< 79 / 237 >

この作品をシェア

pagetop