【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 まして、目の前の夫はアンヌッカと一度も顔を合わせたことがない。もしかしたら、釣書を確認しているかもしないという思いもあって、普段とは違う装いにしてみたのだ。
 しかし、絶対にアンヌッカであると気づいていない。気づく素振りすら見せていない。となれば釣書すら見ていないのだろう。
 アンヌッカだって、名前を聞いただけでこの結婚を受け入れたくらいで、まともにライオネルの釣書を見ていなかった。いや、あれは軍への入隊希望者の資料だ。
 となれば、これはもうお互いさまだ。
「はい。それでは、失礼いたします」
 イノンがビクビクとした様子で頭を下げたため、アンヌッカもそれにならった。
 ライオネルの執務室を出た途端、イノンが大きく肩を上下させて息を吐いた。
「はぁ……緊張しました……」
 どうやらライオネルは部下から怖がられているようだ。
「そうですね。なんか、怖そうな人でしたね」
 第一印象は大事だというのにあれでは最悪だろう。彼らが怯えるのも納得できる。
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