【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
「カタリーナさん。この日誌はマーレ少将に提出することになっているのです……」
 これまたイノンは言いにくそうに、語尾を濁す。アンヌッカに同情しているのか、力になれないことを恥じているのか。
「そうなんですね。先ほどの部屋に持っていけばよろしいのでしょうか?」
「……はい。できますか?」
 椅子に座っているイノンは不安そうにアンヌッカを見上げてくる。
「はい。持っていけばいいだけですよね? 子どものおつかいより簡単です」
「カタリーナさん……辞めないでくださいね。明日も来てくださいね」
 なぜかセールがこのタイミングでそのようなことを言う。
「もちろんです。やっぱり、知らない魔導書を読み解くのは楽しいですから。では、いってきます」
 アンヌッカの背を見守る彼らの目には、同情の色が浮かんでいた。
 もちろんそれはアンヌッカの知ることなく、彼女はライオネルの執務室へと爪先を向ける。
「失礼します。あ……じゃなく、カタリーナ・ホランです」
 周囲に誰もいないこともあって、危うく本当の名を口にしそうになった。
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