【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「先生、今日はこの後何かあるか?」

「いえ……特に」

「せっかく久しぶりにペアになったんだ。
飲みに行かないか?」

「食事だけなら。患者が気になるので、夜中戻るつもりなんです」

「ああ……そうだな。
よし、じゃあ飲みはやめてガッツリ行こう!」


 ◇ ◇ ◇


 森下先生に連れてこられたのは、大学病院近くのとんかつ屋だった。

「ミックスフライ定食ロースで」

「……同じものをヘレで」

 ここは森下先生の奢りになるだろうから、遠慮をせず同じものを頼まなければいけない。
 暗黙のルールだ。

「じゃあ、おつかれ! ノンアルコールビールで悪いけど」
「お疲れ様です。森下先生は飲まなくていいんですか?」

「先生が飲まないなら、運転して帰るよ」

 車だったのか。

「今日、帰っても誰もいないんだ。
嫁と娘は実家の両親と夢の国に行ってる」

「……森下先生は参加できなくていいんですか?」

「夏休みでもないのに休めないだろう。
パシフィコの時に合わせてくれたら足を伸ばせたんだが」

 学会に乗じて、家族旅行を計画するのもよくある話だ。

 しかし今回は奥さんの妹さんとその子供も同行するらしい。なら旦那は邪魔だということかな。

 USパークに叶恋の家族を連れて行ったのは、ことのほか楽しかった。
 せっかくなら森下先生も行けたら良かったのにと思うが、それそれぞれ家族によって考え方が違ったりするのだろう。

「汐宮先生は? 結婚の話とか出てるの? 
付き合ってるんだろ、伊原さんと」

「……」

「彼女、いい子だよな。川崎さんに聞いたけど、結構助けられてるみたいだ」

「叶恋がですか?」

 新人の叶恋が川崎を助けているのか?
 
「伊原さんが来てから医局が綺麗になっただろう?」

「ああ、それはたしかに」

「川崎さんは朝が苦手で来るのが遅いんだ。
だから夕方から夜中にかけて、若い医局員が食い散らかしたあとが、朝もそのまま残ってるのが日常だった。
でも今は伊原さんが朝早くに来て、軽く掃除をしてくれているんだ。
おかげで朝の医局は快適だ。
仮眠室のシーツもしょっちゅう替えてくれてる」

 仮眠室……。
 研究棟にある脳外仮眠室は別名『汚部屋』だ。
 あそこは病棟の仮眠室と違い、ごみ捨ての清掃しか入らないからだ。

 しかも窓がないので空気の流れが良くない。
 野郎ばかりの脳外科だから、運動部の部室のようなすえた臭いがいつもしていた。
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