【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「先生、あそこ使わないだろう?」

「……臭いますからね。
誰かが寝たあとってのも、俺には耐えられません」

「ああ、潔癖そうだもんな。
でも今は伊原さんがいつも清潔にしてくれていて、アロマオイルまで炊いてくれてるんだ。
あれだけであんなにも寝心地が変わるもんなんだな。
金山先生の個人持ちの枕まで、カバーを外して洗ってくれているらしい。あいつ喜んでたなー」

 主婦をしていた叶恋らしい心遣いだ。

 しかし金山先生の枕カバー? 
 あの本棚に飾ってるやつか。
 そこまでしてやらなくてもいいんじゃないのか。
 なんだかムカつく……。
 
「仕事のことも理解あるだろうし、よく気が利くし、可愛いし。先生、いい子を捕まえたよな」

「…………ありがとうございます」

「お、認めた。やっぱ付き合ってたのか。
新人で来た時は争奪戦になると思ったんだが、まさか真っ先に先生が名乗りをあげるとはな! 
塩対応で名高い汐宮先生なのに、初日に一瞬でさらって行ったんだよなー。
他のやつ、先生には敵わないから手を出せないし。
やっぱ仕事の出来るやつは違うわ」

 なんとでも言え。
 ただ、今はまだ偽装が取れていない恋人関係だが。

 俺の気持ちは最初から決まっていた。
 叶恋は俺のものだ。誰にも渡すつもりはない。
 その覚悟がなければ、叶恋の家族をUSパークに連れ出すなんてことはしなかっただろう――
 

 叶恋と再会した時、俺は最初から逃がすつもりはなかった。
 しかし叶恋を取り巻く環境を知り、アプローチの方法を考え直したのだ。

 俺が本気の告白をしたとしても、おそらく叶恋は両親のことを気にして交際を断っていただろう。

 初めて叶恋を抱いた日の、あの涙の理由。
 叶恋が言った『一瞬の絶望と自己憐憫』。

 あの言葉は、今考えてみれば家事と看病に疲弊していたのだ。

 それは『自分の家庭環境が恋愛に適していないことを理解しています』という京香に言ったあの言葉に裏付けられている。

 父親の後遺症はいつか治るものではなく、一生続くものだからだ。退院した後も介護が伴う。

 俺は医師になって多くの患者を見てきた。

 元の生活に戻れないことを受け入れるのは患者本人だけでなく、家族にとっても大変なことなのだ。

 叶恋の性格なら、相手に迷惑はかけられないからと、交際や結婚を諦める選択をするかもしれない。

 あれは、そういう涙だった。

 だから俺は偽装関係をもちかけた。
 偽装関係の間に、外堀を埋めておきたかったのだ。

 そして俺となら安心して付き合えると、家族のことも何も心配はいらないのだと、自然とそう感じてくれることを願った。
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