【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
学会へ
 その後、私たちは残業にならないよう、大急ぎで仕事を片付けた。

 定時を少し過ぎて、やっと帰れるかという頃、医局長の武田先生が戻ってこられた。

「あ、良かった! 伊原さんまだ帰ってなかったんだね」

「はい、何かありましたか?」

「今週末、予定空いてる?」

「今週末……とは、金曜日のことでしょうか?」

「うん。金曜日と土曜日だね。
もし予定が入っていないなら、横浜で行われる学会に随行してほしいんだ」

「学会、ですか」

「そっかー。今週だったね! 
私も昨年連れて行ってもらったの。
百聞は一見にしかずっていうでしょ? 
秘書も学会がどんなものか知っておいた方がいいってことでね。
色々勉強になったよ。
あっちでの先生方の動向がわかるし、活躍ぶりも生で見られるし」

 なるほど……。それはぜひ見てみたい!

 でも横浜で金土となると、1泊するのよね? 
 まさか医局秘書の仕事に出張があると思わなかったわ。
 それに日曜日は……。

「あの……金曜日と土曜日は大丈夫です。
ただ日曜日は弟たちの運動会がありまして、必ず出ないといけないんです」

「それは大丈夫だよ。学会自体は日曜日まであるんだが、メインの発表は金曜日なんだ。
今回は汐宮先生のパネルディスカッションが金曜日の午後だったかな。
黒川教授の座長が2つと、あとはほとんどポスターだから」

 え? 汐宮先生?

「そうだ。今回のメインは汐宮先生じゃない! 
叶恋ちゃん絶対見に行かないと」

「な、菜々ちゃん!」

 武田先生の前で何言うのっ!
 
「フッ……そうだね。
汐宮先生の勇姿を見に行かないとね……クックック……」

「武田先生まで……」

「まさかあの汐宮先生と本当にくっつくとは思わなかったよ。
僕は彼のオーベンだったんだけど、びっくりするくらい女性に塩対応でね。
何度か注意したことがあるくらいだ」

 武田先生の話によると、汐宮先生は背が高く端正な顔立ちで、仕事も卒なくこなすタイプだから入局当初からナースに大変モテていたらしい。

 しかし言い寄ってくるナースにはとことん塩対応で、仕事の内容であっても無視するものだから、師長や主任が間に入らなければならず、ナースステーションは不穏な空気が流れていたとか。

 武田先生も師長に泣きつかれて何度か注意したが、汐宮先生は全く態度を変えず、対処に困ったそうだ。

 なんとまあ……徹底していたのね。

「それが、伊原さんの歓迎会では、真っ先に名乗りを上げただろう? 驚いたなんてもんじゃない。
みんなあの後『あの塩対応男がやっと溶けたんだ。
これは応援しなければ!』ってなってね。
みんなで応援してたんだよ。
師長たちも、伊原さんのおかげで最近は汐宮先生が丸くなったと言って喜んでいるよ」

「そ、そうなんですか……」

 有難いけど、それは私のおかげと言えるのだろうか? 

 ふと双子と永真先生の姿が浮かぶ。
 丸くなったのは、双子と接して父性に目覚めたからなのでは? めちゃくちゃありえそう。

 だったら双子のおかげだ。
 間接的には私のおかげかもしれないけど。

 まあ、ここでそんなことは言えないから黙っておこう。

「じゃあ、詳細はまた明日知らせるから、とりあえず行けるってことでいいね。
汐宮先生、喜ぶだろうな」

「ですね。発表が終わったら自由時間だし」

「うんうん……ふふふ……」

「ふふふ……」

 なんだか二人して楽しそうだけど、学会がどんなものかわからない私には想像しようがない。
 だから百聞は一見にしかずなんだろうな。

 永真先生を見たいのはもちろんだけど、私もしっかり学ばせてもらおう。


 ◇ ◇ ◇
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