【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「まあそうだね……。タイミングって大事だ。
二人が脳外医局で再会できたのは運命だと思うよ」

「はい……」

「お父さんが叶恋ちゃんを医局秘書に推してくださったんですよね?」

 と、お父様が父に話を振る。

「そうなんですよ。叶恋なら何かしらお役に立てるだろうと思って」

 さも自分の手柄かのようにドヤ顔で言う父。

 いや、厚かましくも就職先の斡旋をお願いしただけだよね?
 どう考えてもあれは父の無茶ぶりだった記憶しかない。

「叶恋は頑張り屋ですからね。昔から家族思いで、心根の優しい子なんです。なんでも器用にこなしますし……」

「お父さんっ!! もう恥ずかしいからやめてよー!」

 父は昔からこうなのだ。私に関して謙遜という言葉を知らない。つまり親バカ……。

 いつものことなので、父のことは放っておいて、私は『家族思い』という言葉がどう受け取られるかの方が心配だった。

 今でも理沙に言われた言葉をはっきりと覚えている。
「バカみたいに会社を辞めて、介護なんてしている落ちぶれた人」――あの時言われた言葉だ。

 世間的に見れば、会社を辞めてまで父親の介護をするのはおかしいのかもしれないと、あれから何度も考えさせられた。

『家族思い』が決していい意味だけではないことを今では知っているのだ。

「家族思い……いいですね」

「あ、あの……」

「叶恋ちゃん、なかなかできることじゃないんだよ、叶恋ちゃんがやってきたことは」

「え?」

「私はたくさんの患者を見てきたからわかる。家族が病気になったとき、逃げ出す人も少なくないんだ」

「逃げ出す……?」

 どういう意味だろう。
 じゃあ誰が看病するの? 介護は?

 私の表情を読みとったのか、お父様は少し微笑んで、わかるように説明してくれた。

「たとえば、旦那さんが病気になったとき、その状況を受け止めきれなくて離婚する奥さん。
障害がある子供を受け入れられなくて逃げ出す父親。
これってよくあることなんだよ。
まぁそこまで大ごとじゃなくても、24時間看護がついているのだからと、全く見舞いに来ない無関心な家族というのもよく見かけるね」

「そんな……」

 私が驚いていると、テーブルの向こう側にいたお兄さんが頷きながら「実際……よくあることだね」と言った。
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