【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
 自慢げに話す理沙の横で、陽介がさらに気まずそうにしている。
 ひょっとして……出世のため?
 いえ、出世のためじゃなかったとしても、副社長の娘である理沙に言い寄られて断れるわけがない。
 あの会社にいる限り……。

「叶恋……申し訳ない……」
「陽介さん、謝ることはないわ。だって先輩とはまだ清い仲だったんでしょう? そんなのお付き合いなんて言えないでしょう。小学生の口約束みたいなものじゃない!」
「だが俺たちはやっと今日……」
「陽介さん? この人のことは今日終わらせるって言ったわよね?
あなたは私だけを見ていればいいの。
私たちはもう深いお付き合いなんだから」
「理沙! ここで言わなくてもいいだろう!」
「……」
「事実じゃない! ……今月、遅れているの。
私だって悠長に待っていられないのよ!」

 私は何の話を聞かされているのだろう。
 もういっぱいいっぱいだ。
 これ以上この人たちと話すことはない。
 話も聞きたくない。

「理沙ちゃん、そういう話は二人で話し合って。
陽介さん、別れましょう。
理沙ちゃんの言う通り、私たちのお付き合いなんて大したことないわ。
それに父のことを悪く言われるのは許せないの。
父はお荷物なんかじゃない。大切な家族なの。
……もう、二度と会うことはないでしょう」
「叶恋!」

 私は二人をカフェに残してその場を足早に去った。
 早くそこから離れたかったのだ。

 悔しい!
 なんであんなこと言われなきゃならないの!
 
 陽介は私にとって初恋だった。
 ずっと子役として過ごし、辞めてからは双子にかかりっきりだった。高校でも大学でも、恋愛なんて言葉は私の辞書になかったのだ。
 初めて好きになった人だったのに――!
 
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