【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
夢のような一夜
 小さい頃は、日曜日になると、ドライブ好きの父がいろいろなところへ連れて行ってくれた。

 帰り道はいつも渋滞していたけれど、父と母はそれさえも楽しみの一つかのように、サービスエリアで買ったコーヒーを飲みながらお喋りをし、二人の好きな音楽を流しながらクスクス笑っていた。

 どんな時でも穏やかで、仲の良い二人。
 それが当たり前の光景だった。

 私は後部座席のジュニアシートに座り、いつもそんな二人を見ながら遊び疲れて寝ていたものだ。

 家に着くと、寝ている私を父が運んでくれたっけ。
 ベッドに寝かされた瞬間、目が覚めるのよね。

 あれはもう、ずーっと昔のことだ。
 双子が産まれる前の、父がまだ元気だった頃のこと――――

「……レン、起きたのか?」
「……え? あ……ごめんなさい、私寝てしまって……」

 どうやら私は夢を見ていたようだ。
 ああ、そうか。エイシンさんがここに運んでくれた時と重なって……。

 何の悩みもなく、両親と祖母の愛情を一身に受けていた頃の懐かしい夢を見たんだわ。
 
「また考えているのか?」
「え?」
「元カレのこと」
「……違います。うんと小さい頃の夢を見ました。
なんの憂いもない頃の……」
「そうか……なら良かった」

 優しい人だ。目が覚めてボーッとしているだけなのに、行きずりで一晩共にしただけの私を心配してくれているのか。ワインバーで声をかけてくれたのがこの人で良かった。

 どれくらい眠ったのだろう。ベッドから見える窓を見ると、少し明るくなり始めた頃だった。
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