【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
 これは私が望んだこと。私の意思でお願いしていることだ。
 彼はそのことを確認するかのように言う。

 薄暗い灯りの中、こんなに近くにいるのに、涙と視力の悪さで男性の顔がよく見えない。
 でも私は彼の目をジッと見つめ、後悔はしないと、はっきり告げた。

 明日になれば、また日常に戻ろう。
 何もかも忘れるんだ。
 これはそのためのステップ。

 この人は今晩だけの行きずりの人。
 でもこの声だけは覚えておこう。
 この声の主が私を絶望から救ってくれる。
 低く、人に安心感を与える声。
 ぶっきらぼうな物言いなのに、その奥に優しさを隠している人。

「……お願い、抱いて」

 彼は私の頬に手をやり、再び口付けてきた。今度はゆっくりと優しく、啄むようなキス。
 大胆なことを言ったにもかかわらず、どうしたらいいのかわからない私を労るような優しいキス。
 でも、これじゃ……。さっきのキスを知ってしまったら、物足りない。

「もっと……さっきみたいに」
「フッ……欲しいのか?」
「…………はい」
「……」
「……? どうしたんですか?」
「 名前を教えろ」

 名前。そうか、こんなことするのに名前くらいは……

「……れん、です」
「レン?」
「え……あ、はい」
「俺はエイシンだ」
「エイシン、さん?」
「しっかり覚えておけ」
「は……ンンっ」

 エイシンさんは再び噛み付くようなキスを仕掛けてきた。
 ――――濃密な夜が始まった。
 
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