【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「…………一夜の相手に、私はいかがでしょうか」
「なっ⁉」
 
 正気の私なら絶対に言えないような言葉だ。
 ただワインバーで隣り合わせになっただけの人。
 親切にも酔って眠ってしまった私に手を差し伸べてくれただけの人だ。
 でもこの人なら、こんなとんでもないお願いも聞いてもらえるかもしれない。そんな信頼感をこの出会って間もない間に感じていた。

 それにこの人は行きずりの人だ。
 今の私には、むしろなんのしがらみもない人がいい。
 あ、でも――
 
「ごめんなさい。大事な方がいらっしゃるんですか?
だったら私、失礼なことを」
「いや……いない。だが」
「ホッ……良かった。
…………今だけ、全部忘れたいんです。
明日になったら私のことは忘れてくださって結構です。
今晩だけで構いません。
何もかも忘れるくらい強く抱き締めて……私を、抱いてくだ」

 最後まで言い終わらないうちに、グイッと引き寄せられ、唇を塞がれた。

「……んんッ」

 過去に経験したことのないような激しいキスをされ、さっきまで寝ていたベッドに押し倒されるされる。

 キスって、こんなもの? 
 こんなに激しいものなの?

「……今なら止められる。
振られたからって、会ったばかりの好きでもない男と……後悔するぞ」
「……ハァ…………大丈夫、です……」
「本当にいいんだな? ……望んだのはお前だ」
「はい……私です」
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