【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
 試着の際、すべての値札は取り外されていた。
 これ、一体いくらするんだろう……。
 思わずゴクッと唾を飲みこんだ。

「あのぉ…………着ました」

「まあ、良くお似合いで!」

「素敵ですわ! ミントグリーンがお顔を優しく見せますね。こちら、同色のカチューシャのご用意もございます」

 そう言って、すっと私の頭にカチューシャを挿してくれた。
 鏡に映る自分を覗き込むと……たしかにとてもお嬢様らしい。我ながら化けたと思う。
 でも同色のカチューシャはやりすぎなんじゃないのかな。せめて黒……。
 
「お客様、いかがでしょうか?」

「悪くない。次行ってくれ。…………ピンクもあっただろう?」

 あ、やっぱりピンクも着るんだ。
 ピンクか……。

 実は先にミントグリーンを着たのには訳があった。
 私は昔からピンクを避けていた。

 それは『クッキングアイドルかれん』の衣装がピンクだったからだ。
 その印象が世間に広まっていたので、身バレしないためにもピンクを避けていたのだ。

 でもあれから10年以上も経っている。今さら私がピンクを着ても誰も気づかないよね。

「あら、まぁ……」

「素敵……」

「えぇえぇ、なんてピンクがお似合いなのでしょう。
こちらでしたら、このサンドベージュのミュールと、同色のバニティをお持ちになれば……完璧ですわ!」

「決まりだな」

「う……はい……」

 ピンクを着るのは久しぶりだ。
 でも似合っていると言われたら素直に嬉しい。
 それに、やっぱりピンクは私の戦闘服なんだと思う。

「すぐにご用意いたします!」

 店員さんが着てきた服を丁寧に包んでくれる。
 そんなたいそうな服ではないのに申し訳ない。
 
「あの…………分割でも大丈夫でしょうか」

「は? 何言ってるんだ? 俺が払わせると思ったのか?」

 馬鹿にしてるのか? という表情をされる。でも多分医局秘書の給与の2ヵ月分くらいの額になるはず。

「これは必要経費だ。恋人役のな」

 いやいや、こうなったのは、私のせいってことだったんじゃなかったのかな。

 そう言いたかったけれど、汐宮先生にギロッと上から睨まれては、これ以上言い出せない。

 結局お支払いをしてもらって、大急ぎで隣接するホテルへ移動した。
< 68 / 182 >

この作品をシェア

pagetop