【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
偽恋人、演じます!

「初めまして、伊原叶恋と申します!」

「永真の母の志津子です。突然呼び出すことになっちゃってごめんなさいね」

「いえ。今日は会ってくださりありがとうございます。よろしくお願いします」

 着席してすぐに運ばれて来た色鮮やかな松花堂弁当をいただきながら、お母様との食事会が始まった。
 
「この子ったら、いい歳になってもまったく女の子の気配がないの。母親として心配して当然だと思わない?」

「そ、そうですね」

「良かったわぁー。こんな可愛らしいお嬢さんを連れてくるなんて! 
…………でも本当に突然よね? いつ出会ったの?」

 来た! ここでさっきの『出会い』だ。

「先月、スティルバーグ監督の新作を観にいったんだ。仕事が終わったあとレイトショーで。
その時たまたま隣の席になったのが叶恋だった。
隣の席でずっと泣いてて」

 ちょっと! 泣いてたことまで言わなくていいんじゃないの?
 私が横から睨みをきかせると、慌てて汐宮先生が補足した。
 
「あ……か、感動的な映画だったからな。
泣けるような。
……それでその後、遅めの食事をしようとワインバーに入ったら、そこにまた叶恋がいたんだ」

「まあ、じゃあ本当に偶然出会ったのね」

「は、はい」

「永真が声をかけたの?」

「……普通、そうだろ」

「あなたが今までその普通を全くしてこなかったから聞いているんじゃない」

「あ、あのっ、私がついついワインをボトルで頼んでしまったのを先生が見て『閉店まであまり時間がないのに飲めるのか』と声をかけてくださったんです。
それでボトルを空けるお手伝いをしていただきました」

「なるほど……親切なことね」

「はい! とても親切な方でした。
まさかまた新しい就職先で再会出来ると思わなくて」

 ここまでは事実。何も嘘はない。
 でも事実を話しているというのに、冷や汗が背中を伝う。

「あら、じゃあ永真がドクターって知らなかったの?」

「ワインバーでそんな話は……したんですか?」

 全く覚えがないので汐宮先生に聞いてみる。
 少なくとも、一夜を過ごした後にそんな話をした覚えもないから。

「お前、速攻で酔っ払っていたからな。
あの時はお互いに素性がわかるような話は一切してない。
翌朝、連絡先を渡したのに、こいつは連絡してこなかったし。母さんが医局に電話してこなかったら……」


「ちょっと待って! 翌朝って何!?」

「何って……」

「あなたたち、一晩……過ごしたの?」

「……野暮なことを聞くなよ」

 汐宮先生がニヤッと意味深に笑った。
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