【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
京香さん現る
 週が明け、月曜日。今日も出勤するなり教授室から内線が入る。

 黒川教授は一体いつ来られているのだろう。私もかなり早く出勤しているが、黒川教授より早かった試しがない。

 いつものように、専用マグカップにコーヒーを注ぎ、ミルクと砂糖を1杯ずつ入れる。
 
コンコン
 
「おはようございます! コーヒーをお持ちしました」

「伊原さんおはよう。今日も元気だね」

「それだけが取り柄なので」
 
 先週から朝のコーヒー係は私がしている。
 毎朝のこの短い教授とのやり取りが、私の楽しみの一つだ。

「君に謝らないといけないことがあるんだ」

「……? どうかされたんですか?」

「昨夜、たまたま法事のことで姉に電話したんだが、その時……新しい秘書さんのことを聞かれて、何も考えずに鹿島くんの紹介だと言ってしまったんだ」

「え……あっ!」

 すっかり忘れてた! 
 姉って汐宮先生のお母様のことね。
 鹿島くんの紹介ということは、父の病気のことかな。
 鹿島先生の患者だと言ってしまったってことだろう。

「父の主治医をしてくださっていることですよね? 
それは何も問題ありません」

 昨日は、偽装恋人なのにそこまで家庭の事情を話す必要性を感じなかったのだ。
 でも、隠していたと思われたのかしら。

「むしろ昨日お話し忘れたというか……隠すつもりはなかったんです」

「いや、君の口から言うのと、私の口から伝わるのとではまったく違う。これは勝手に話していいことではないんだよ。我々には守秘義務があるからね」

「そんな……気にしてませんから。先生は事実をそのまま伝えられただけだと思います。鹿島先生が主治医で、その紹介というのは事実なんですから」

 心から申し訳なさそうにされる黒川教授を見ていると、こちらの方が申し訳なく思う。

 それに万が一、理沙のような考え方をされたとしても別にいい。否定的に思われたのならそれまでのことだ。
 我が家の事情は変えられないのだから。

 あの夜、散々泣いた私は、もう自分の家族について一切卑下しないと決めたのだ。

「申し訳ない。しかし驚いたよ。もうそういう仲になっていたんだね…………おっと。これも失言か。これはセクハラになるんだったか。いや、難しいなぁ」

「……ハハハハ」

 セクハラだとは思っていませんが、姉弟で一体なんの話しをしているんですか?
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