黒澤くんの一途な愛


「黒澤くんのバイク、初めて乗せてもらったけど……かっこいいね」


漆黒のバイクは、黒澤くんのイメージ通りだ。


「サンキュ。高校はバイク通学禁止だから乗ってねぇけど、バイトして買ったんだ」


へぇ。黒澤くん、アルバイトしてるんだ。
初耳!


「ちなみに俺も……このバイクに女を乗せたのは、栞里が初めてだよ」


鼓動がドクンと跳ねた。


私が初めてって、本当に?


南実さんは、乗ったことがないの?


「あっ。ばあちゃん以外で……だけどな」


赤信号でバイクが停まり、黒澤くんがふいにこちらを振り向く。


「私が……初めて」

「ああ」

「そう、なんだね」


些細なことでも彼の初めてになれたことが、すごく嬉しかった。


「ちなみに、俺が誰かを好きになったのも……栞里が初めてだ」


──プップー!


「えっ? 黒澤くん、今なんて?」


ちょうど他の車のクラクションの音がして、彼の声がよく聞こえなかった。


「……なんでもねぇよ」


何か言ったような気がしたんだけど、気のせいだったのかな?


信号が青になり、再び動き出すバイク。


自転車のときとはまた違う風を感じながら、夜の街を駆け抜けるのは新鮮で。


私は、黒澤くんとの束の間の時間を楽しんだのだった。

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