黒澤くんの一途な愛


南実さんが、黒澤くんに慌てて駆け寄る。


「りっくん、大変! りっくんのおばあちゃんが、倒れたらしいの……!」

「え、ばあちゃんが?!」


黒澤くんの顔つきが、一瞬で険しいものになる。


「たまたま家を尋ねた私のお母さんが、倒れているおばあちゃんを見つけて。さっき、救急車で病院に運ばれたみたいだけど、りっくんのスマホに連絡しても繋がらないから……」

「悪い。スマホの電源切れてた」


スマホを確認する黒澤くんの顔、今まで見たことがないくらいに真っ青だ。


そりゃあ、そうだよね。


ご両親を突然事故で亡くして、それからずっとおばあちゃんと二人で生きてきたんだもん。


以前、街中で進藤くんからおばあさんを助けたときに、私に向けられたおばあさんの優しい笑顔を思い出し胸が痛む。


「それで、私がここまで伝えに来たんだけど……」


南実さんが遠慮がちに、私のほうをチラッと見る。


「黒澤くん。私のことは良いから、早く病院に行ってきて?」

「あっ、ああ。悪いな、家まで送ってやれなくて」


黒澤くんに、私は首を横に振る。


「りっくん。私、タクシー呼んであるから」


校門の近くに停車していたタクシーの後部座席に、南実さんが乗り込む。


それに続こうとした黒澤くんが、乗る直前に足を止めた。


黒澤くん、どうしたんだろう?

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