〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
 中井は蛍の死体を人気《ひとけ》のない東久留米市の畑道に放置。近隣の住人が蛍を発見するまで、蛍は冷たい雨に全身を打たれていた。

「神田さんが気付いた被害者達の特徴と、逮捕当時の中井の特徴が似ているの」

 中井は見た目には人を殺すとは思えない気の弱そうな顔立ちだった。尾野、大久保、池原の三人と顔の特徴が似ている。

「中井には妻と中学生の娘がいた。家で妻と娘に邪険に扱われていたから、パパ活の相手をすることで良いパパを演じて自分を満たしていたの。だけど女子高生とデートを繰り返すうちに、身体が欲しくなったって言ってた。それで犠牲になったのが川島蛍」

 美夜は川島蛍の家族の項目に目を留める。
蛍の父親の名前は川島拓司。現住所は東京都北区豊島五丁目、都営 豊北《とよきた》団地六号棟の五○七号室。

「被害者の家族は父親だけなんですね」
「母親は病死してる。蛍の父親は会社を経営していたんだけど、倒産してね。借金もあったみたい。蛍は自分の学費を稼ごうとしてパパ活をしていたのよ」

 川島家は、以前は調布市の一戸建てに住む比較的裕福な家庭だった。蛍が三歳の時に両親が離婚、2年後に母親が川島と再婚した。

母親の再婚相手の川島と蛍には血の繋がりがない。

 蛍が十三歳の冬に母親が持病の悪化のため病死。そこから川島家の不幸が立て続けに起きた。
3年前に親から引き継いだ製紙会社が不況のあおりを受け経営難で倒産。

川島と蛍は調布市の家を出て、北区の団地での生活を余儀なくされた。

「当時は中井だけでなく蛍も世間から批判されていた。パパ活で殺されたんだから自業自得だってね。娘を失っただけでなく、死んだ後も世間から娘が中傷される日々に心を病んだ父親は一時期、精神科に通っていたと聞いてる」

 ネットを使った被害者や被害者家族へのバッシングも近年問題になっている。八王子パパ活殺人も被害者の井上香奈への批判の書き込みが絶えなかった。

昨年殺された川島蛍にも香奈と同様の批判の矢が向けられただろう。その矢は死んだ蛍ではなく、残された遺族に突き刺さる。

 ネットの書き込みの意見には誹謗中傷だけではなく正論も多い。大概が正論だとも言える。
その正論も、本来は親や教師が子どもに言って聞かせなければならない言葉だ。

 未成年者が殺されたニュースが流れると世間の人々は口々に可哀想、と言う。

けれど後に被害者が援助交際をしていた事実が報道されるや否や、世間の反応は被害者への同情から批判に変わる。ひとつでも罪があれば人はその罪を叩く。

人間は手のひら返しの生き物だ。
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