〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
 現状では、被害者三人の共通点は年齢と外見の類似のみ。その外見が川島蛍殺害の犯人と類似している。

 蛍がパパ活に手を染めたのは高校一年生の夏。パパ活相手を探す目的で使用していたツイッターは現在はアカウントごと削除されているが、ツイッターのアカウント開設日は2016年8月だった。

『普通にファミレスやコンビニのバイトでもすれば蛍も殺されなかったのにな』
「1時間デートするだけでお金が貰える。休日に8時間ファミレスでバイトするよりも手っ取り早く稼げるからやるのよ。それで殺されるなんて、誰も思っていない」

 美夜と九条は川島の職場に車を向けていた。昼を過ぎても空は鉛色のまま。数センチ空けた窓から湿った風が車内に吹き込んだ。

『神田は高校時代バイト何してた?』
「親が厳しくてバイトもさせてもらえなかった。したことあるバイトは大学時代の塾講師」
『バイトが塾講師とは。さすが有名国立大学出身のエリートですねぇ。ピアス空けたのは厳しい親への反発だったり?』
「馬鹿にしてる?」
『してねぇよ。神田みたいな優等生タイプがピアス空いてるのが意外だっただけ』

美夜の両耳にはひとつずつピアスホールがある。ピアスを空けたのは20歳の誕生日だった。

『つーか、なんで刑事になろうと思ったんだ? わざわざノンキャリアで警察入らなくても、神田の学歴ならエリート街道まっしぐらだろ』

 美夜は答えない。無言の彼女は頬杖をついて流れる街並みを助手席から眺めた。
窓の隙間を通って侵入する雨の匂いに乗せて、彼女は過去を追想する。

エリートにもキャリアにも興味はない。
美夜が警察官になった理由は誰も知らない。知ったとしても誰にも理解されない。

「九条くんはバイト何してた?」
『高校の時は色々やったぞ。ティッシュ配り、牛丼屋……コンビニが一番バイト歴長かった。常連客で美人なOLがいてさ。歳は二十七くらいかな。パスタやスイーツでも買って行きそうな顔していっつもカップ麺と缶ビールとサキイカのつまみ買って行くんだ。そのギャップがまた……』

 その先を促してもいないのに九条は延々と昔話を語る。話のオチの想像がついた美夜は、わずかに口元を上げた。

「結局、奥手な九条少年は美人OLに告白できないまま今に至ると」
『それを言うなっ! やっぱりお前はえげつない女だな』

 軽口を叩くうちに川島の職場に到着した。調布の会社を畳んだ川島は北区の印刷工場に勤務している。

側には王子駅、周りを都道と首都高に囲まれた喧騒の場所に巨大な印刷工場があった。
門扉のインターホンで責任者と連絡を取り、川島を呼び出してもらう。
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