〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
 門扉の前で川島を待つ間、美夜は三階建ての工場を見上げる。規模の大きな印刷工場だ。

『川島はここの非正規社員。昔は経営者だった人間が使われる側に回るなんて世の無情だな』

 九条は鉄柵にもたれかかり、シャツの襟元を緩めて扇いだ。気温はそれほど高くなくても、湿気のせいで蒸し暑く感じる。

「蛍も小遣い稼ぎと低所得の父親を助ける目的でパパ活していたんでしょうね。川島は蛍のパパ活のことは知ってたのかな」
『調書には知らなかったって答えてる。思春期の娘が休日に何をしてるか、いちいち把握もしないだろ』

 やがて門扉の向こうからひょろりとした痩せ形の男が現れた。彼が妻を病気で亡くし、義理の娘を殺された哀れな父親だ。

『川島ですが……』
「お仕事中に申し訳ありません。警視庁捜査一課の神田です」

美夜と九条が同時に警察手帳を掲げる。
娘の殺人事件の一件で刑事を見慣れているのだろう。突然の刑事の来訪にも、川島に驚いた様子は見られなかった。

 まず九条が話の流れを作る。美夜と九条のバディでは、九条の方がコミュニケーション能力に優れている。何事も最初の掴みが肝心だ。

『先月から稲城市、狛江市、府中市で連続している四十歳前後の男性ばかりが殺害されている殺人事件をご存知でしょうか? ニュースではサラリーマン連続殺人と題されていますが』
『はぁ……。ニュースも新聞もあまり見ないので、そんな事件があったんですね』
「では、この三人の男性を見て誰かに似ているとは思いませんか?」

 次は美夜が被害者の顔写真を川島に見せた。三枚の写真を一瞥する彼の目の下には濃いクマがある。寝不足だろうか。

『誰とは?』
「川島さんにとっては名前も耳にしたくない相手です。こちらが現在服役中の中井道也。写真は逮捕当時の物です」

美夜の右手には第一、第二の被害者の写真、左手には第三の被害者、そして九条が中井道也の写真を川島に向けた。

『……似ていますね。目元や雰囲気が。だから僕のところに来たんですね。殺された人達が中井に似てるというだけで、僕を疑っているんですか?』
「お気を悪くされたのなら謝ります。浮上した可能性はひとつずつ潰していくのが警察の仕事です。6月2日の20時から22時頃、どこで何をされていました?」
『参ったな。独り暮らしですし……ああ、少し待っていてください。財布を取ってきます』

 不機嫌な顔で突っ立っている九条は、門の向こうに去る男をいつまでもねめつけていた。
< 26 / 66 >

この作品をシェア

pagetop