〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
Act1.玉響と幽霊
 大久保義人は疲れていた。ここのところ営業の成績は下降気味。下の世代には出世を追い越されて小馬鹿にされ、上の世代には日々嫌味を言われ、四十歳を前にいまだ独身。

過干渉な母親があれこれと結婚の世話を焼いてくるが、自分が結婚できないのはプライベートに不必要に口出しをする母親のせいだと彼は思っていた。

 会社にいても家にいても息が詰まる日々だ。
このまま人生に劇的な変化も刺激もなく肉体は朽ちていくのだろう。

「ねぇねぇ、おじさん。暇してる?」

 新宿駅に向けて歩いていた大久保は足を止めた。目の前に学生服姿の女が立っている。
つり目の奥二重にツンとした細い鼻。冷たい印象の和風美人な少女だ。

白シャツに紺色チェックのプリーツスカート。大久保の学生時代とは制服のデザインが変わっている学校が多く、どこの学校かはわからない。

『おじさんって僕?』
「そうだよ。暇してるなら私と遊んでよ」

 紺色のスカートから生えた棒のような白い脚に釘付けになる。最近の高校生は一様に体型が華奢だ。

一昔前の女子高校生は、肉付きのいい太ももを見せびらかして歩いていた。電車や駅の階段ですれ違う彼女達の艶と張りのある若い太ももはいい眺めだった。

 今の少女達は極上な太ももを膝丈のスカートで覆い隠している。こちらとしては時代の流れに楽しみを奪われた気分だ。けれど大久保は、少女のスカートに隠れた中身を想像して興奮を覚えた。

これはこれで奥ゆかしい。隠されたものを剥ぎ取って眺める楽しみ方もある。

『僕なんかでいいの? もっとカッコいい人がいるよ?』
「おじさんがいいの。おじさん私の好みなんだ。遊ぼ?」

 若い女に誘われてわかりやすく高揚してしまう自分はまだまだ男の現役だ。

少女に提示されたプランは本番行為なしで五千円。本番ありだと一万五千円以上となるらしく、給料日前で財布が軽い今日は五千円のプランを選んだ。
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