〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
彼女は資料の束をめくる。次のページには蛍のツイッターとインスタグラムの投稿がいくつか記録されている。
蛍はツイッターでパパ活相手を募っていた。蛍を殺害した中井道也ともツイッターを介して知り合っている。
ツイッターのフォロワー数はインスタグラムよりも遥かに多い百九十三人。投稿内容もツイッターはパパ活募集のツイートのみ。
ツイッターはパパ活の営業用、インスタグラムは日常用と使い分けていたようだ。
「蛍と一緒に写ってる子、どれも同じ子だ。同じ制服着てるから高校の友達ね。名前は……ひかり?」
インスタには制服姿の少女二人のプリクラ画像の投稿がある。投稿日は2017年5月19日、殺される1ヶ月前だ。
投稿に添えられたキャプションには[テスト終わった♡ひかりと池袋で遊んだよ]と記されている。
『ホタルとヒカリか。示し合わせたような名前。それにしても最近のプリクラは昔に比べて顔が宇宙人になるな。目が不自然にでかくてすげぇ不気味。今の高校生はこれが可愛いと思ってるのか』
蛍のインスタはほとんどの投稿に#ljk、#jk1、#likeforlikeなど、SNSならではの暗号染みた記号や文字が並んでいた。意味を知らない人間にとっては解読不能な文字列だ。
「感覚が麻痺しちゃうのかもね。世代じゃないけどルーズソックスや日焼けサロンも当時の人達はこれでいいって思ってやっていたんじゃない?」
『ルーズも日焼けサロンもドンピシャ世代以外には理解し難いものがあった』
「だけど下の世代を見て今時の若者は……と言い出したら自分が年寄りになってる証拠よね」
『俺らが高校の頃も上の世代には散々そうやって言われてきたしな』
1990年代から続くプリクラ文化や、スマートフォン普及に伴う近年のアプリ加工文化の流行を先導しているのは若年層でも、機能を作り出しているのは大人だ。
「九条くんもプリクラ撮ったりしてた?」
『高校の頃はたまに。ゲーセンは高校生の遊び場だっただろ?』
「ふぅん。そういうものなのね」
大人が作ったビジネスの流れに子どもが乗せられているのか、子どもが流れを作るから大人がそれをビジネスに利用するのか、卵が先か鶏《にわとり》が先かの問題のように思える。
『今日は家の布団で寝る。お前も徹夜すんなよ。あと、ここ。チョコついてるぞ』
九条が自分の口の端を指差した。指摘されて初めて口についたチョコの存在に気付いた美夜は、慌ててその焦げ茶色をティッシュで拭う。
考え事をしながらの食事は他に注意が向かなくなるものだ。
「……お疲れ様」
『お疲れさん』
何故か上機嫌に口笛を拭く九条の背中を赤い顔で見送り、美夜はデスクに向き直った。
高校の制服は蛍が在学していた北区の高校に間違いない。明日このヒカリという少女に会いに行こう。
疲れた身体を引きずって、美夜も警視庁を後にする。鬼灯《ほおずき》の実と同じ色の傘に弱い雨粒が踊り、飽きずに降る雨は今夜も東京の街を滲ませていた。
蛍はツイッターでパパ活相手を募っていた。蛍を殺害した中井道也ともツイッターを介して知り合っている。
ツイッターのフォロワー数はインスタグラムよりも遥かに多い百九十三人。投稿内容もツイッターはパパ活募集のツイートのみ。
ツイッターはパパ活の営業用、インスタグラムは日常用と使い分けていたようだ。
「蛍と一緒に写ってる子、どれも同じ子だ。同じ制服着てるから高校の友達ね。名前は……ひかり?」
インスタには制服姿の少女二人のプリクラ画像の投稿がある。投稿日は2017年5月19日、殺される1ヶ月前だ。
投稿に添えられたキャプションには[テスト終わった♡ひかりと池袋で遊んだよ]と記されている。
『ホタルとヒカリか。示し合わせたような名前。それにしても最近のプリクラは昔に比べて顔が宇宙人になるな。目が不自然にでかくてすげぇ不気味。今の高校生はこれが可愛いと思ってるのか』
蛍のインスタはほとんどの投稿に#ljk、#jk1、#likeforlikeなど、SNSならではの暗号染みた記号や文字が並んでいた。意味を知らない人間にとっては解読不能な文字列だ。
「感覚が麻痺しちゃうのかもね。世代じゃないけどルーズソックスや日焼けサロンも当時の人達はこれでいいって思ってやっていたんじゃない?」
『ルーズも日焼けサロンもドンピシャ世代以外には理解し難いものがあった』
「だけど下の世代を見て今時の若者は……と言い出したら自分が年寄りになってる証拠よね」
『俺らが高校の頃も上の世代には散々そうやって言われてきたしな』
1990年代から続くプリクラ文化や、スマートフォン普及に伴う近年のアプリ加工文化の流行を先導しているのは若年層でも、機能を作り出しているのは大人だ。
「九条くんもプリクラ撮ったりしてた?」
『高校の頃はたまに。ゲーセンは高校生の遊び場だっただろ?』
「ふぅん。そういうものなのね」
大人が作ったビジネスの流れに子どもが乗せられているのか、子どもが流れを作るから大人がそれをビジネスに利用するのか、卵が先か鶏《にわとり》が先かの問題のように思える。
『今日は家の布団で寝る。お前も徹夜すんなよ。あと、ここ。チョコついてるぞ』
九条が自分の口の端を指差した。指摘されて初めて口についたチョコの存在に気付いた美夜は、慌ててその焦げ茶色をティッシュで拭う。
考え事をしながらの食事は他に注意が向かなくなるものだ。
「……お疲れ様」
『お疲れさん』
何故か上機嫌に口笛を拭く九条の背中を赤い顔で見送り、美夜はデスクに向き直った。
高校の制服は蛍が在学していた北区の高校に間違いない。明日このヒカリという少女に会いに行こう。
疲れた身体を引きずって、美夜も警視庁を後にする。鬼灯《ほおずき》の実と同じ色の傘に弱い雨粒が踊り、飽きずに降る雨は今夜も東京の街を滲ませていた。