〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
 静寂に包まれた捜査一課のフロアに足音が響く。コンビニの袋を提げた九条大河が美夜の隣席に腰を降ろした。

美夜のデスクにはタブレット端末の横に川島蛍の事件に関する捜査資料の束が山積みに置かれている。

『また川島蛍の捜査資料見てんの? 川島のアリバイは立証されただろ』
「都合良く現れた6月2日のレシートがどうしても気になるのよ」

 第三の被害者、池原秀樹の死亡推定時刻である6月2日の20時から22時頃の川島のアリバイは成立した。彼が所持していたスーパーのレシートの会計時刻にスーパーの防犯カメラ映像に買い物をする川島の姿が映っていた。

大久保義人のツイート〈ホタルに会える〉から昨年殺された川島蛍を連想したが、蛍の父親の川島にアリバイがある以上は、捜査線上から川島犯人説は除外される。

『レシートはアリバイ工作で、川島の共犯者が殺したって線を考えてるんだろ? ガイシャの特徴が中井道也と似てるからって飛躍し過ぎじゃねぇの?』
「じゃあ蛍を殺した中井と被害者三人の容姿の類似をどう説明付ける? あの大久保のツイートも、ホタルって誰のこと?」
『それは……』

菓子パンを頬張る九条は口ごもった。美夜は九条に渡されたチョコロールパンの袋を開け、空腹の胃にチョコパンを投げ込む。

 捜査資料に記載された川島蛍のインスタグラムのアカウント名を検索すると、タブレットにインスタグラムの画面が現れた。

「蛍のインスタのアカウントまだ消えてないね」
『川島にしてみれば娘の思い出アルバムみたいなものだから消せないさ。事件で蛍のパパ活が報道された後は蛍を中傷するコメントが書き込まれて荒らされたんで、インスタ非公開にしたって資料に書いてあった』

 現在は非公開となっているため蛍のアカウントを閲覧できない。
[このアカウントは非公開です]と表示された蛍のインスタの投稿数は103、フォロワーは一人、フォローは七人。

当時のインスタグラム画像が掲載された捜査資料と見比べるとフォロワー数とフォロー数が減っている。

「今はフォロワーが一人しかいないね。元は三十人程度だったフォロワーが最後の一人になったみたい。このフォロワー誰なんだろ」
『更新されない幽霊SNSを今でもフォローし続けてるなら、そいつも幽霊アカウントかもな。パスワードがわからなくなってログインできなくなったとか?』

 スマートフォンなどの機種変更時にSNSのパスワードが不明でアカウントにログインできず、削除もされずに使われないままネットの海を彷徨《さまよ》う幽霊アカウント。よくある話だ。

故人が生前に使用していたSNSアカウントも使用者以外にパスワードがわからず、遺族がアカウントを削除できない事例も多い。
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