〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
予鈴のチャイムがなる前に教室に戻った光に近付いて来たのは、クラス委員長の睦美《むつみ》だ。
バレー部の副キャプテンでしっかり者、クラスのリーダーを喜んで買って出そうなタイプの睦美は、光の苦手なタイプだった。
「井口先生が西村さんを探してたよ。五限目が始まる前に職員室に来てくれって」
「職員室?」
「五限に遅れても欠席扱いにはしないって言ってた。早く行った方がいいよ」
次の授業に遅れても欠席扱いにしないとは、どういうことだろう。怪訝に感じつつ職員室の扉を開けた光を待っていたのは、学年主任の井口教諭と見知らぬ女だった。
『西村。こちら警視庁の刑事さんだ』
「警視庁捜査一課の神田と申します」
光は渡された名刺を見下ろした。この名前には見覚えがある。
昨日、川島の職場に現れた女刑事だ。
「刑事さんが私に何の用ですか?」
「川島蛍さんの件でお話を伺いに来ました。教室を用意していただいたから、話はそちらで」
光が連れて行かれた場所は職員室の隣の会議室。長机を挟んで光と美夜がパイプ椅子に腰掛けると、美夜は扉の前に仁王立ちする井口に向き直った。
「先生。申し訳ありませんが席を外していただけませんか?」
『しかし……』
「ここからは非常にデリケートな話になります。男性の先生がいると、光さんも本当の気持ちを言えなくなってしまう恐れがあります。何かあればお声をかけますので」
美夜に促されて渋々退散する井口が面白かった。三年の学年主任で生徒指導部主任、普段は生徒達に偉そうに指図している井口も、美人と国家権力には弱い。
「井口って神田さんみたいな人がタイプなのかな。自分の外見が良いのをわかって利用してる?」
「私は自分の外見はどうでもいいの。でも使えるものは使う主義。ああいう強面《こわもて》な先生が狼狽える様子は面白いよね」
「神田さんいい性格してるね」
川島の職場に現れた刑事は男と女の二人組と聞いていた。捜査では刑事は二人一組で行動するとドラマか小説で得た知識だが、学校に訪れた刑事は神田美夜だけのようだ。
「川島蛍さんのインスタグラムの投稿にあなたと一緒に写っているプリクラを見つけたの。最近のプリクラは落書きをしないのね。私が知っているプリクラとは違って驚いたよ」
「神田さんの時代のプリクラはどんな風だった?」
「私が高校生の頃は、今みたいに目が大きくなったり肌が綺麗に写る機能は少なかったよ。代わりにスタンプやペンで派手な落書きを楽しむ文化だったね。ノートにプリクラを貼ったプリクラ帳って物を作っている人もいた」
見たところ美夜の年齢は二十代後半。彼女が十代の頃のプリクラの落書き文化やプリクラ帳、現在では廃れた文化が光には新鮮だった。
プリクラのデータはインスタグラムでいくらでも加工できる為、プリクラ機のスタンプやペンの機能はほとんど使わない。
プリクラ帳は手帳に数枚のプリクラを貼っていた中学時代の同級生を知っている。要はプリクラ専用の手帳だと解釈できた。
バレー部の副キャプテンでしっかり者、クラスのリーダーを喜んで買って出そうなタイプの睦美は、光の苦手なタイプだった。
「井口先生が西村さんを探してたよ。五限目が始まる前に職員室に来てくれって」
「職員室?」
「五限に遅れても欠席扱いにはしないって言ってた。早く行った方がいいよ」
次の授業に遅れても欠席扱いにしないとは、どういうことだろう。怪訝に感じつつ職員室の扉を開けた光を待っていたのは、学年主任の井口教諭と見知らぬ女だった。
『西村。こちら警視庁の刑事さんだ』
「警視庁捜査一課の神田と申します」
光は渡された名刺を見下ろした。この名前には見覚えがある。
昨日、川島の職場に現れた女刑事だ。
「刑事さんが私に何の用ですか?」
「川島蛍さんの件でお話を伺いに来ました。教室を用意していただいたから、話はそちらで」
光が連れて行かれた場所は職員室の隣の会議室。長机を挟んで光と美夜がパイプ椅子に腰掛けると、美夜は扉の前に仁王立ちする井口に向き直った。
「先生。申し訳ありませんが席を外していただけませんか?」
『しかし……』
「ここからは非常にデリケートな話になります。男性の先生がいると、光さんも本当の気持ちを言えなくなってしまう恐れがあります。何かあればお声をかけますので」
美夜に促されて渋々退散する井口が面白かった。三年の学年主任で生徒指導部主任、普段は生徒達に偉そうに指図している井口も、美人と国家権力には弱い。
「井口って神田さんみたいな人がタイプなのかな。自分の外見が良いのをわかって利用してる?」
「私は自分の外見はどうでもいいの。でも使えるものは使う主義。ああいう強面《こわもて》な先生が狼狽える様子は面白いよね」
「神田さんいい性格してるね」
川島の職場に現れた刑事は男と女の二人組と聞いていた。捜査では刑事は二人一組で行動するとドラマか小説で得た知識だが、学校に訪れた刑事は神田美夜だけのようだ。
「川島蛍さんのインスタグラムの投稿にあなたと一緒に写っているプリクラを見つけたの。最近のプリクラは落書きをしないのね。私が知っているプリクラとは違って驚いたよ」
「神田さんの時代のプリクラはどんな風だった?」
「私が高校生の頃は、今みたいに目が大きくなったり肌が綺麗に写る機能は少なかったよ。代わりにスタンプやペンで派手な落書きを楽しむ文化だったね。ノートにプリクラを貼ったプリクラ帳って物を作っている人もいた」
見たところ美夜の年齢は二十代後半。彼女が十代の頃のプリクラの落書き文化やプリクラ帳、現在では廃れた文化が光には新鮮だった。
プリクラのデータはインスタグラムでいくらでも加工できる為、プリクラ機のスタンプやペンの機能はほとんど使わない。
プリクラ帳は手帳に数枚のプリクラを貼っていた中学時代の同級生を知っている。要はプリクラ専用の手帳だと解釈できた。