〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
遺体は十代後半から二十代前半の痩せ形の女性、身元は調査中。状況から自殺と見られ、側に落ちていた包丁と血に染まったタオルは警官が回収している。
園内の街灯の灯りは弱々しく、捜査を進めるには心許《こころもと》ない。警官が持つ懐中電灯の灯りが、潰れたリュックサックとスマートフォンを照らした。
「所持品ですね。これは最初からここに?」
『はい。発見時のまま動かしていません』
リュックとスマホは、公園と遊歩道を繋ぐ階段の頂上に仲良く並んでいた。スマホはバニーガールのイラストのピンク色のスマホケースをつけている。
美夜はスマホの電源ボタンを押した。ブルーライトが眩しく光るスマホ画面を閲覧した彼女は無表情のまま目を伏せる。
予想していた最悪のシナリオが瞼の裏側に映し出された。こうなる前にもっと早く気付いていれば。
もっと早く止めていれば。
(あの時の小山主任の気持ちが、今は少しわかるかもしれない)
パパ活をした結果、殺された井上香菜を刑事として正しい道に導けなかった真紀の後悔を、美夜は理解できなかった。
井上香菜も川島蛍も自業自得の罪は消えない。彼女達に同情する者も批判する者も、最後は同じ疑問を抱いている。
“なぜ彼女達はアルバイトにパパ活を選んだ?”
警察官の立場だからできたことがあったはず。
防げた犯罪、食い止められた死。今も真紀の後悔の半分も理解できたとは言えないが、この悔しさは初めて味わう感情だった。
覚悟を決めて彼女は遊歩道に降りた。階段の中腹辺りから血の痕跡が染み込んでいる。
遊歩道のタイルの上に寝かされた人形《ひとがた》はブルーシートを被っている。
剥がされたブルーシートの下から覗いた顔は、美夜が知っている少女だった。
「……やっぱり」
『ご存知なんですか?』
「私が追っている事件の参考人です」
少女の名前は西村光。数時間前に顔を合わせたばかりの少女は、すでに命の炎を消している。
頸部に刃物で切りつけた傷がある。手足には擦過傷や打撲の跡が見られた。
階段の中腹で自分の頸《くび》を切った彼女はそのまま下に転げ落ちて息絶えたのだろう。
光の死に顔は穏やかだ。生前の彼女には見られなかった年相応の少女らしい寝顔には、死に化粧が施されている。
瞼を彩るゴールドのアイシャドウは夜空を舞うホタルの輝きのように、キラキラと煌めいていた。
園内の街灯の灯りは弱々しく、捜査を進めるには心許《こころもと》ない。警官が持つ懐中電灯の灯りが、潰れたリュックサックとスマートフォンを照らした。
「所持品ですね。これは最初からここに?」
『はい。発見時のまま動かしていません』
リュックとスマホは、公園と遊歩道を繋ぐ階段の頂上に仲良く並んでいた。スマホはバニーガールのイラストのピンク色のスマホケースをつけている。
美夜はスマホの電源ボタンを押した。ブルーライトが眩しく光るスマホ画面を閲覧した彼女は無表情のまま目を伏せる。
予想していた最悪のシナリオが瞼の裏側に映し出された。こうなる前にもっと早く気付いていれば。
もっと早く止めていれば。
(あの時の小山主任の気持ちが、今は少しわかるかもしれない)
パパ活をした結果、殺された井上香菜を刑事として正しい道に導けなかった真紀の後悔を、美夜は理解できなかった。
井上香菜も川島蛍も自業自得の罪は消えない。彼女達に同情する者も批判する者も、最後は同じ疑問を抱いている。
“なぜ彼女達はアルバイトにパパ活を選んだ?”
警察官の立場だからできたことがあったはず。
防げた犯罪、食い止められた死。今も真紀の後悔の半分も理解できたとは言えないが、この悔しさは初めて味わう感情だった。
覚悟を決めて彼女は遊歩道に降りた。階段の中腹辺りから血の痕跡が染み込んでいる。
遊歩道のタイルの上に寝かされた人形《ひとがた》はブルーシートを被っている。
剥がされたブルーシートの下から覗いた顔は、美夜が知っている少女だった。
「……やっぱり」
『ご存知なんですか?』
「私が追っている事件の参考人です」
少女の名前は西村光。数時間前に顔を合わせたばかりの少女は、すでに命の炎を消している。
頸部に刃物で切りつけた傷がある。手足には擦過傷や打撲の跡が見られた。
階段の中腹で自分の頸《くび》を切った彼女はそのまま下に転げ落ちて息絶えたのだろう。
光の死に顔は穏やかだ。生前の彼女には見られなかった年相応の少女らしい寝顔には、死に化粧が施されている。
瞼を彩るゴールドのアイシャドウは夜空を舞うホタルの輝きのように、キラキラと煌めいていた。