殺人容疑をかけられた悪役令嬢の真実。
 傍まで行くと、ニコッと微笑みながら手を差し出した。

「聖女・カトリーヌ。是非私と踊って下さい」

 その言葉にセレスティンは絶句する。本来ファーストダンスは婚約者か妻と踊るのが暗黙のルール。既婚者や婚約者が他の異性と踊るのはマナー違反とされている。
 それなのに皇太子であるウィルモットは、婚約者のセレスティンを置き去りにして、カトリーヌにファーストダンスの相手として申し込んだのだ。
 ショックを隠せないセレスティンに、追い打ちをかけるようにカトリーヌは、戸惑いながらもその手を受け入れてしまった。
 彼女は平民なので、正式なマナーを知らなくても当然だ。なのに……。

 ウィルモットは、嬉しそうに彼女の手を握り返すと、引き寄せる。そして、片方の手をカトリーヌの腰に回すと、少しずつ踊り出した。
 慣れないダンスに戸惑うカトリーヌだったが、ゆっくりとリードしながら踊る姿は、理想的な皇太子のよう。美しい二人の姿は、まさにお似合いだった。
 周りの貴族達もそれを微笑ましそうに見ている。

「まぁ、なんてお似合いなのでしょう」

「聖女様も初々しくて可愛らしいわ。これでは、どちらが婚約者か分からないわね?」

「あら、聖女様が現れたのよ? そうなれば聖女様が皇妃陛下になるのが当然ではなくて?」

 令嬢たちの何気ない言葉にズキッとセレスティンの心が痛む。
 セレスティンがもっとも恐れていること。それは彼の心が完全に離れて、婚約破棄をされることだった。もともと皇族の命令で決まったことだ。
 いつ覆されるか分からないし、それでも皇妃になるために必死に頑張ってきた。
 それなのに、聖女が現れた途端に自分の居場所が奪われることになるなんて。

 不安になっているセレスティンを蔑ろにして、ウィルモットは二度目のダンスもカトリーヌと踊り出した。
 二度目を許されるのも婚約者か妻だけ。これでは、婚約者が変わったと言っているようなもの。
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