姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
「麻子と別れなかったら、今ごろ奈緒と叶奈と、四人で暮らせていたんだろうな」
麻子は崇の言葉を聞いて、突然なにを言いだしたのかと目を見開いている。
「今さらね」
「麻子」
「もう戻れないの。あの頃には」
麻子の返事はとても冷たい響きがあった。
でもその表情は、できの悪い息子を叱る母親のように優しげだ。
「じゃあ、迎えに行ってくる」
「お願いします」
「ああ」
崇が名残惜しそうに病室から出て行くと、麻子は疲れたから眠りたいと言いだした。
「あなたたちも、もう帰りなさい」
「お母さん」
「今日のこと、琴子さんにはなにも言わないでね」
麻子が倒れたことも、崇が病院に来たことも、もちろん祖父と崇が黙っていた奈緒の妊娠のこともだと念押しされた。
「送るよ」
譲に促されて、叶奈も帰ることにした。
だが譲はこの街に住んでいることを思い出した。叶奈が近くの駅まででいいと言うと、譲に叱られてしまった。
「こんな時に遠慮しなくていい」
「でも」
「俺が送りたくて言ってるんだ」
少しでも一緒にいたいし話がしたいんだと、真面目な顔で譲が言う。
「今までどれだけ心配したか」
そう言われたら、叶奈も頷くしかない。
譲の車に乗ると、優しい声で話しかけてくれる。
「播磨屋に寄って、食事しよう。そうしたらきっと疲れも取れるさ」
叶奈はまた泣きたくなってきた。
ずっと会いたかった。顔を見て話したかった。その相手が横にいて叶奈を慰めてくれるのだ。