姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
「帰ろうか」
「はい」
譲から声をかけられて、ふたり同時に立ち上がった。
これで遠藤の家に戻れると思うと、うれしい気持ちがあふれてくる。
「それでは、失礼します」
叶奈はドアから出る前に、なんだか琴子が気になって少し振り向いた。
そこにはぼんやりとした目をして、壁を見つめている琴子の姿があった。
「おばあ様」
思わず叶奈は呼びかけた。
琴子はハッとしたように、ドアの前に立つ叶奈に顔を向けてくる。
「なんですか」
「もう少ししたら、メルボルンに行くつもりなんです」
「メルボルン?」
「おばあ様も、外国旅行なんていかがですか」
琴子が珍しく、キョトンとした顔をした。
すぐに誘われていると気がついたのか、琴子らしく居ずまいを正してから「考えておきます」とだけ口にした。
なんだか叶奈はうれしくなってきた。
初めて孫らしく、琴子と話せた気がしたのだ。
「また、ここに遊びに来てもいいですか?」
琴子の口角が少し動いて、微笑みを浮かべている。
承諾してくれたということだろう。
「ありがとうございます」
松尾家に来てから初めて、叶奈も心からの笑顔になれた。
「行こう」
黙ってふたりのやり取りを見ていた譲が、叶奈の肩にそっと手を置いた。
「またね、おばあ様」
今度こそ、琴子ははっきりと微笑んだ。
「またいらっしゃい。ふたりで」
叶奈はペコリと頭を下げた。
いつもなら叱られそうな雑な仕草だが、もう奈緒のように上品にしなくていいのだ。
叶奈は自分らしいのが一番だと、心から思った。