姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
この辺りは海とは縁遠い内陸部だし、叶奈はあまり海まで出かけたことがない。
春先の海は季節外れかもしれないが、波が寄せるのを見てみたいと叶奈は思った。
「了解。九十九里でも湘南でも、君の好きな場所に連れて行ってあげるよ」
「うれしいです」
「じゃあ、約束」
『約束』という言葉は、とても甘く叶奈の胸に響いた。なにかが始まりそうな予感すらした。
「じゃあ、出かけるのは卒業式の翌日でいいかな」
「はい」
「午前中に迎えに来るよ」
母にも祖父母にも秘密の約束をしてしまったが、逆に自慢したい気もする。
譲から誘われて舞いあがっていたけれど、冷静になると立場の違いが身に染みた。
湯浅ホールディングスの御曹司と自分が付き合うなんて、ありえない話だ。
これは言葉取り、譲からの卒業祝いなのだと叶奈は思うことにした。
(妹みたいな存在だってかまわない)
それに相手が御曹司だとわかったうえで恋心を打ち明けるほど、叶奈は世間知らずではないつもりだ。
(たまたま知りあえただけ。この気持ちは伝えずに、大切にしまっておきたい)
ふたりで出かけるのは海へのドライブが最初で最後になるはずだから、後悔がないように思いっきり楽しもうと叶奈は自分自身に言い聞かせていた。