姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
叶奈は地元の公立大学の四年生。
店では赤いサロンエプロンを腰で結んで、肩までの髪を邪魔にならないようにひとつにまとめている。
中肉中背で、美人でもないし特別かわいいわけでもない。ただ播磨屋の常連客からは、明るい笑顔が好評だ。
十月に入って大学の友達には内定が出たものもいるが、叶奈は就活はしていない。
大学三年生になって、いざ就職を考えたときに迷ってしまったのだ。
大学に入った時には、教師の採用試験を受けるか、地元の銀行に挑戦するつもりだった。
だが祖父母はそろそろ七十が近いし、料理嫌いの母は店を継ぐ気がなさそうだ。
叶奈がこのまま播磨屋を継ぐにしても、もっと広い世間を見てからにしたい。だから、一年間だけ猶予をもらった。
メルボルンの日本料理店で働いている母の弟が「店を手伝ってくれるなら、ホームステイOK」と言ってくれたので、大学の卒業式が終わったら旅立つ予定だ。
叔父の家なら安心だし、いい経験になるからと家族はワーキングホリデーを許可してくれている。
こんなに恵まれていてありがたいと思うからこそ、叶奈は播磨屋を大切にしたかった。
卒論は地元の中小企業の将来にテーマを決めて、骨格は出来上がっている。
教授のゴーサインはもらっているし、資料を読み込んで文章化も進めているから時間の余裕は十分ある。
だから今のうちにいっぱい手伝っておこうと、このところ大学の授業以外のほとんどの時間は店にいた。