姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
そんなある日、お昼過ぎに男性たちの一団が店にやってきた。
スーツ姿の人もいれば作業服を着ている人もいる。一見すると、どんな関係なのかわからないグループだ。
「こんにちは」
「は~い。いらっしゃい」
グループの中でも上質なスーツ姿の男性が、入ってくるなり食券の販売機の前で立ち止まっている。
「こちらは初めてなんだけど、ここで食券を買うのかな」
その人は店のシステムに慣れないようで戸惑っている。
恋の始まりというのは、いつも突然だ。
店に入ってきたばかりの人に、叶奈の視線は釘付けになってしまった。
背が高くて、しなやかな体つきと涼やかな目をした人。
播磨屋ではめったに見かけない、上質なビジネススーツを着こなしている。
真面目そうな風貌なのに、少しふっくらとした唇には愛嬌があって、そこから発せられる声はよく通って穏やかだ。
「おいしそうなメニューがたくさんあって、迷うな」
仲間たちと楽しそうに会話している人に、叶奈はドキドキしながら話しかけた。
「食べたいものが決まったら食券を買ってくださいね」
「おすすめは?」
決められなくて困ったのか、叶奈に尋ねてくる表情には茶目っ気がある。
真面目そうな外見に似合わず、気さくな人のようだ。