姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
「おじいちゃんの料理はどれもおすすめです。特にカレーはおいしいですよ」
「カレーか。いいね、うまそうだ」
「お腹が空いてらっしゃったら、カツとかコロッケのトッピングもできますし」
男性客たちはパアッと明るい顔になる。
とても空腹だったのか、それぞれカツカレーとか焼肉定食とかボリューミーなものに決めて食券を買っていく。
叶奈と会話した男性は、普通のカレーにしたようだ。
そういえば作業服姿の男性たちが横にふっくらしているのに比べたら、スーツの男性はスラリとしている。
「こちらの席にどうぞ」
「ありがとう」
笑うと目が細められて、整いすぎた顔がふわっと柔らかい印象になる。
叶奈は窓際の席に案内すると、ドキドキしながら厨房に戻った。
落ち着こうとするのだが、どうしても胸の鼓動がおさまらない。
いつも通りの接客を心がけようとすればするほど、男性を意識してしまうのだ。
(ひとめぼれって、こういうことかも)
二十歳過ぎてひとめで恋に落ちるなんてばかげていると思いながら、叶奈は落ち着かなかった。
どうやら叶奈は、男性のビシッと決まったスーツ姿に弱いらしい。
周囲にそんなタイプがいないし、働く父親の思い出もないからか、ついときめいてしまうのだ。
いろいろな客が訪れる播磨屋だが、このグループは少し雰囲気が違っている。
食事しながらも、皆が真面目な顔であれこれと議論している様子がうかがえる。
空になったコップに水を足していたら、聞くでもなく会話の内容が耳に入ってきた。