姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です



松尾家の家族についても少しずつわかってきた。

かつて松尾家は中堅の家電機器メーカーだった。ところが横浜で手広く輸出の仕事をしている一族から琴子を妻として迎え、それがきっかけで海外での生産を始めたことから大企業に成長したらしい。
崇はそのひとり息子。現在は副社長だが、やがて祖父の跡を継いで社長になるというのが未来図らしい。

どんなに豊かに暮らしていても、叶奈からみたらこの屋敷の住人はどこか歪だ。

祖父は仕事が最優先らしく、出張ばかりだという。
今も出張でアメリカへ行っているというが、いつ帰ってくるのかわからない。
崇も同様で、叶奈が屋敷に住み始めてからもほとんど顔を合わせていない。

だから食事の時間は琴子とふたりきりだ。
家族と賑やかに食卓を囲んでいた叶奈にとって、琴子とふたりだけの会話のない食事は味気ないものだった。

どんな些細な話題でも遠慮なく話せる楽しさが、この屋敷にはまったくない。
家族はバラバラだし、それぞれ別の方角を向いて暮らしているように思えるのだ。

家のことは通いの家政婦がすべてしてくれるから楽だろうが、これでは琴子だって寂しすぎる。
琴子があれほどワンマンなのは、その反動のような気がしてきた。

そんな松尾家だが社交界では名が通っているらしく、あちこちからパーティーやお茶会の招待が絶えないようだ。
琴子はそろそろ叶奈の相手が面倒になって来たのか、出かけることが多くなってきた。
その時間だけは、叶奈はホッとひと息つける。




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