姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
アメリカ留学中にオートバイにはまった崇は、帰国してからも休日になるとあちこち乗り回していたらしい。
播磨屋は当時からバイク仲間では有名な店だったので、ツーリングの途中に寄ってみたようだ。
「短大を卒業して店の手伝いをしていた麻子と運命的な出会いをしたんだ」と、娘が聞いても恥ずかしいようなセリフを崇は平然と言ってのけた。
「かわいかったよ、麻子は」
今はすっかり愛嬌をなくしてしまったねと言いつつ、ハハハと崇は笑っている。
そうさせたのはあなただろうと言い返したかったが、母の「言っていいことと悪いこと」という言葉を思い出してグッと飲み込んだ。
「プロポーズして、結婚して、次々に君たちが生まれて、幸せだったなあ」
崇はひとつひとつの思い出を辿ったのか、遠い目をしている。
だが思い出には苦さもあるようだ。
「私が意気地なしだったんだ。麻子には申し訳なかったよ」
そう話す時の崇は、年相応に見えた。
叶奈が想像したとおり、結婚して松尾家に同居した麻子と琴子の関係は最悪だったらしい。
当時の崇は仕事に必死だったし、海外に出張することも多かった。
結局アメリカ出張中に、麻子は出ていったのだ。