姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
「おじい様によろしくお伝えくださいませね」
「ありがとうございます」
よほど急いでいるのだろうか、二言三言交わしただけで恭介はすぐに立ち去ろうとする。
「お茶くらいご一緒しましょうよ」
「すみません。病院の仕事もありまして。叶奈さん、またゆっくりお会いしましょう」
「は、はい」
恭介は軽く会釈をすると、足早にラウンジから出て行った。
「慌しいこと」
琴子がそのうしろ姿に呟いていたら、紅茶と数種類のケーキがワゴンで運ばれてきた。
ウエイターの手でふたりの前にカップやソーサーが並べられていく。恭介が注文しておいてくれたのだろう。
「お好きなケーキをお選びください」
「では、私は軽いものを」
「フランボワーズのムースがお勧めでございます」
叶奈はぼんやりと琴子の会話を聞いていた。恭介の視線を思い出すと、どうしても違和感を感じるのだ。
(なんだかおかしい)
恭介は見合い相手が変わっても大丈夫だと言ったらしいが、離婚した元妻が引き取った叶奈になったのだ。
松尾と名乗っていないし、今では松尾電機とは何の関係もない。
当然値踏みしたはずだ。恭介の視線や話し方、態度などにそれが現れると思っていた。
(一切、感じなかった)
叶奈に変更されたのに、まるで気にしていなかった。当然のように受け入れている理由がわからない。
お茶を飲み終わると、琴子から庭園に誘われた。
「せっかくだから、お庭でも見て帰りましょう」
「はい」
上品に姿勢よく座っているのは限界だったので、叶奈はすくっと立ちあがる。
品がなかったのか、琴子の視線から圧力を感じた。
「失礼いたしました」
しとやかにわびながら、叶奈の笑顔は引きつりそうだった。