姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
ホテルから横浜の屋敷に帰ると、琴子が信じられないことを言いだした。
「そろそろあなたは奈緒のマンションに移ってちょうだい」
「は?」
琴子は家政婦に指示を出し始めた。どうやら荷造りをさせるようだ。
琴子が「はいこれ」というように、叶奈にマンションのカードキーを差し出してくる。
学生時代に奈緒が住んでいたのは賃貸マンションではなく、松尾家のものらしい。
留学中も定期的に掃除していたから、すぐに住める状態だと言う。
「姉が留守なのに、部屋を使ってもいいのですか?」
姉とはいえ、お互い見知らぬ他人も同然だ。
「仕方がないわ。私だって、あなたにかかりきりになれないもの」
すでに三ヶ月近くも叶奈の指導をしていたから、そろそろ自身の社交に戻りたいのだろう。
叶奈の礼儀作法が、未熟なりに少しは見られるようになってきたのかもしれない。
ずっと屋敷にいて叶奈の相手ばかりはしていられないから、体よくマンションに追い出されるようだ。
「ひとりでも大丈夫でしょう」
「は、はあ」
まるで宅配荷物のようだ。あっという間に叶奈は生活の場所を移されることになった。
「香川さんから連絡があったら伝えるから、よろしくね」
屋敷を出る前に琴子が言ったのはそれだけ。
見合いは中途半端に終わったから、再度会わなくてはいけないようだ。