姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です


叶奈は無性に奈緒に会いたかった。
こんな環境でずっとがんばっていたのかと思うと、抱きしめてあげたいくらいだ。

「叶奈さん、なにか飲まれますか」

「は、はい」

周囲を気にしていて、つい返事が遅れてしまった。

「大丈夫ですか? 顔色が悪いようだけど」

恭介も心配そうに声をかけてくる。

「大丈夫です」

そう答えて微笑んでみせたが、視線をグラスが並んでいるテーブルの方に向けた。
お酒でも飲みたい気分だが、琴子ならこんな場所では控えなさいと言うはずだ。
ノンアルコールのものにしようかと考えていたら、思いがけない人の姿が目に飛び込んできた。

(湯浅さん⁉)

なぜ横浜のビルで開かれている恭介の友人の婚約披露パーティーの会場に、湯浅譲がいるのだろうか。

「やあ、譲じゃないか」

叶奈の気持ちに反して、恭介は気安く譲に話しかけている。
ふたりはどういう関係なのだろう。パニックになりそうな気持ちを押さえ、叶奈はぎこちなく恭介の後ろに身を隠す。

「恭介! ロスから帰ってきたのか」

譲は懐かしい顔に出会ったとばかり、足早に近づいてくる。

(こっちに来ないで~)

叶奈の願いもむなしく、譲はあっという間に目の前に来てしまった。

「おや、今日はパートナーと一緒か? すみにおけないな」

譲は目ざとかった。後ろに隠れていた叶奈に気がついて話しかけてきたのだ。

「ああ、紹介するよ。こちらは」

恭介の言葉を待つことなく、譲が目を見開いた。

「叶奈さん?」

このピンチに、返事なんてできるはずがない。
背中に冷や汗が流れるだけでなく、気分まで悪くなってきた。

(胃が痛い)

叶奈はずっと下を向いたまま、身を固くしていた。



















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