姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
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叶奈と約束をしていた、卒業式の次の日。
混みあう昼の時間帯は避けるつもりだったから、十時頃に叶奈を迎えに播磨屋に行く。
やはりこの時間にはほとんど客もいなくて、アルバイトの女性が暇そうにしている。
「いらっしゃいませ」
「叶奈さんはいるかな?」
「えっと」
叶奈の姿が見えないので尋ねたら、女性は口ごもってしまった。
どうしたのかと思っていたら、店の奥から叶奈の母親が出てくるのが見えた。
珍しくビジネススーツを着て、黒いトートバッグを持っている。
「こんにちは」
譲が声をかけると、ハッとした顔になる。
「湯浅さん」
ぼんやりしていたのか、譲がいることに驚いた表情だ。
「あの、今日は叶奈さんは」
「……しばらく留守なんです」
まさかと思ったが、自分に何も言わずに旅立ったのだろうか。
「もうメルボルンへ発たれたんですか」
「あっちへ行くこと、あの子から聞いたおられたんですね」
メルボルンへ行くことを譲が知っていると思っていなかったのだろう。
叶奈がどこにいるのか聞こうと思ったら、麻子がためらいがちに相談を持ちかけてきた。