姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
「もう出ようぜ、こんな店」
「食べてからにしましょうよ」
「お水でも飲みますか」
なだめる声も耳に入らないのか、その男性客は立ち上がると叶奈に詰め寄ってきた。
「金は払わないからな!」
すぐ目の前で大声で叫ばれて、叶奈は足がすくんでしまった。
その時、目の前にサッと背の高い人影が入った。仕立てのいい背広には見覚えがある。
どうやら店に来た譲が騒ぎに気がついて、叶奈の前に立ってくれたようだ。
「もったいないですよ。この店のおいしい料理を食べないのは」
「はあ?」
「さあさあ、あなたも座ってください。ほら、お待ちかねの料理が運ばれてきましたよ」
なんだかうまく丸め込んだようで、いっせいに運ばれてきた料理とともにその男性を座らせてしまった。
「おいしそうですね~」
本気で「おいしそう」言っているように聞こえる譲の言葉に、客たちも口々に「うまい」「熱々は最高だな」と話しだす。
男性客も気まずかったのか、食べ始めたらすぐにおとなしくなった。
「あの、ありがとうございました」
叶奈はそっとお礼を言った。
すると、どういたしましてというように譲が笑顔を向けてくる。