姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です


せめて大学を出てすぐに見合いするのではなく、少しだけでいいから自由な時間が欲しかった。
語学留学したいともっともらしい理由を言えば、疑われることなくあっさりと認めてもらえた。
奈緒は幼いころから反抗することもなく、家族の言うとおりにしてきたから信用だけはあったようだ。

卒業式が近くなった時期に、女子大で仲よくなった友人たちが楽しそうに話しているのが聞こえてきた。
アメリカ西海岸にグループで出かけるという。

彼女たちと遊んだら楽しそうだ。家族の目が届かない場所くらいでは羽目を外してみたい。

ロサンゼルスに行ってすぐ髪を茶色く染めて、濃いメイクをしてみたら別人になれた気がした。
語学学校に通うのもそこそこに、友人たちと様々な場所に出かけた。そして皆と連れ立って、タトゥーを入れてみた。
奈緒の右の太腿には、小さな赤いハートが矢で射抜かれている。
これくらいなら簡単に消せるらしいから、結婚が決まったらなんとかしよう。
それくらいの軽い気持ちだった。


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