【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
「どうしました?」
「……クロエ、貴女(あなた)の歩む道は、本当に侍女で良いの?」

 わたくしの――カミラの侍女になってくれると、クロエは言った。それは医者の道を閉じることに繋がるのではないかと……そう思って、彼女に問いかける。

 クロエは一瞬きょとんとした表情を浮かべて、それから「なにを言い出すかと思えば……」とおかしそうに肩を震わせた。……笑い事ではないのでは……?

「この国に残ったとしても、私の医者としての道は閉ざされるでしょう。私のことを良く思っていない人が多いですからね。それなら、カミラさまと新しい道を歩いてみたい。リンブルグという、未知の土地を!」

 心底楽しそうに言い切ったクロエの勢いに、飲み込まれそうになった。

 カップを置いて、彼女の手をぎゅっと握る。

 そして、心からの「ありがとう」を言葉にした。

「あ、そろそろ溜まったかしら。クロエ、バスタオルとバスローブの準備をお願いしても良いかしら?」
「もちろんですよ」

 クロエは「きっとここら辺……」と小声でつぶやきながら、バスタオルとバスローブを探し当て、しっかりとその手に持つ。

 わたくしは浴室に向かい、お湯が溜まったのを確認してから、お湯を止める。ふと、視界に入浴剤が入った。

 せっかくだから使ってみましょう、と入れてみる。

 あ、お湯が白くなった。

 保湿効果がありそうな入浴剤ね。甘いミルクの香りが鼻腔をくすぐる。

 ゆっくり浸かると疲れが取れそう……

 ……デートは楽しかったけれど、お父さまたちとの会話は疲れたわ。

 ベネット公爵家の人たちにとって、わたくしって本当に存在価値なさそうよね……

 まぁ、そんなことは考えるのをやめましょう。
< 111 / 232 >

この作品をシェア

pagetop