【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 ブレンさまは人懐っこくにこっと笑うと、パチンと指を鳴らした。

 そして、それから五分もしないうちに部屋の扉がノックされた。クロエが「はい!」と慌てて扉に駆け寄り、客人を招き入れる。

 そこにいたのは、やはりレグルスさまだった。

「どういう状況?」
「……ブレンさまに一時的ですが、戻していただきました」

 わたくしの言葉に、レグルスさまは一瞬目を(またた)かせて、ブレンさまに視線を移動する。彼が小さくうなずくのを見てから、すっと手を差し出す。

「――行こう」
「どちらへ?」
「マティス殿下のとこ。いろいろお願いをしに、ね」

 わたくしはレグルスさまを見つめて、こくりとうなずいてその手を取った。

「こちらこのことは、お任せください」
「ええ、クロエ。二人をお願いね」

 そうクロエと言葉を()わしてから、わたくしたちは彼女の部屋をあとにする。

 クロエが嬉しそうに笑って頭を下げたのが見えた。

 急ぎ足で、マティス殿下のところへ向かう。校舎に入る前に手を離し、学園内に残っている学生たちにマティス殿下がどこにいるかを(たず)ね、屋上にいると教えてもらった。屋上まで行き、重い扉を開くと――学生たちが言うように、彼の姿が視界に入る。

「ごきげんよう、マティス殿下」

 わたくしたちに気付くと、眉根を寄せるマティス殿下。

「……なんの用だ、カミラ」
「あなたに、お願いがありますの」

 自分の身体に戻ったことで、なんだかとっても気が晴れる思いだった。

 そして、マティス殿下のことを改めて自分の目で見て――なにも、感じなかった。心の奥で、なにかを感じるかもしれないと思っていたけれど……

 全然、なにも、感じない。

 ……むしろ、興味すら感じないことに驚いた。
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